時の狭間で…
Written by とらこ
第五話
過去から来た直江と高耶が赤鯨衆のアジトに入って4日が過ぎた。 その間、嶺次郎や中川、未来の高耶と直江も交えて過去へ戻るための方法を色々と模索していたが、一向にいい方法は思いつかなかった。 未来の自分に説得され、一時は落ち着いた高耶だったが、日が経つにつれて隠しきれない苛立ちが募る。 少しでも外を歩きまわれれば気分も晴れるのだろうが、このところ赤鯨衆は伊達との戦いが激化し、昼も夜も関係なく多くの隊士達が動き回っていたので、それもできない。 「いつになったら自由になれるんだよ!? もういいかげん嫌になるぜ」 険しい表情でぶつぶつと不平をこぼす高耶。直江も同意して深く頷く。 「……そうですね」 高耶の苛立ちもわかるが、直江には為す術もない嶺次郎達の困惑も理解できた。時を超えて過去へ戻る方法なんて、前例のないことだろうし、そう簡単に見つかるはずもないからだ。 (……このまま、戻れなくなってしまったら……?) そう思うと、ぞくりと肌が粟立った。 (冗談じゃない……!) 恐怖を紛らわし、再度過去へ戻るための方法を模索するために、直江はもう一度未来へと飛ばされてしまった時の状況をよくよく考えてみることにした。 関東近郊のとある森に怨霊調伏に出かけたのが、そもそもの発端だった。 しかし、あの森自体におかしいところはなかったように思われる。怨霊の活性化のせいで多少地場が狂っていたが、それも特におかしな現象ではない。 (−−となれば、やはり……) 高耶の<力>と怨霊の<力>がぶつかりあったことが原因としか思えない。しかし、そんなことは調伏のたびにしょっちゅうあることだ。今までこんなことは起きたことなどなかったのに……。 (……しかし、あり得ないことではない) 調伏力とは現世から冥府へ、直接霊を送りつける力。その際に何らかの原因で空間が歪んでしまったのかも知れない。 そう考えると、直江の脳裏にはある方法が浮かび上がった。 失敗する可能性は大いにあったが、このまま何もせずに手をこまねいているよりは全然マシというものだ。 「高耶さん」 「ん? なんだよ?」 思い立った直江は自分の考えついた仮説を高耶に話してみた。すっかりふてくされていた高耶は最初は半信半疑の眼差しだったが、最後まで聞き終えると目を輝かせて言った。 「そーだよな! 来たときと似たような状況になれば、またその空間の歪みよやらが開くかも知れねーもんな。くそ〜。なんでそんなカンタンなことに今まで気がつかなかったんだろーな!?」 無理もない、と直江は思う。 この未来の四国へ来てからというもの、驚かされることばかりでそこまでゆっくりと考えている余裕もなかったのだから。 「とにかく、嘉田達に話してみようぜ。んでもって、さっそく実験だ!」 −−直江の思いついた方法とはとても簡単なことだった。 赤鯨衆と伊達との戦いに参加すること−− あの時と同じような状況を作るには、それしか方法はなかった。 * *
「なんだと?」 その日の夜。二人の様子を見に現れた未来の高耶と直江に、昼間思いついたことを話してみた。聞き終わってしばらく未来の高耶は考え込んでいたが、ふいに顔を上げて過去の高耶の額を小突いた。 「なんでそんな重要なことをさっさと話さなかった?」 「いってーな! しょーがねーだろ! 今日思い出したんだから!」 額を押さえながらわめく高耶に苦笑しながら、未来の直江は言った。 「とにかく、やってみる価値はありそうですね。……問題はどうやって嘉田を説得するかですね」 嶺次郎は兵頭ほどはっきりとではないにしても、まだ過去の二人を疑わしい目で見ている部分がある。その二人が大事な伊達との戦いに参加することを簡単に認めるとは思えなかった。しかし、未来の高耶はきっぱりと言い切った。 「嶺次郎のことはオレにまかせておけ。−−直江」 「はい」 「明日の作戦について詳しく説明してやってくれ。それと地図でここらの地形と伊達の布陣を教えてやれ。オレはすぐに嶺次郎のところへ行ってくる」 言うやいなや、さっさと出ていったしまった高耶を目で見送ると、未来の直江は懐からこの辺りの地図を取りだしてテーブルの上に広げた。 「さあ、明日の作戦は夜明けには動きだします。その前にこの地形とこれから言うことを頭に叩き込んでおいてください」 瞬間、過去の二人の目の色が変わった。 元の時代へ戻れるかも知れないチャンスを、みすみす逃すわけにはいかない。 今夜は一睡もしない覚悟で、二人は直江の話に耳を傾けた……。 17723HITの佐姫れんサマのリク作品、第五話をお届け致します。 いよいよ次あたりで終われるでしょうか……? ほんとは未来の二人の関係も見せちゃおうかな〜とか思ったんですが、なんだか書いているうちに収拾がつかなくなってしまったので、直してみたり(笑) |